「いまの時代、不誠実な態度はユーザーに伝わる」というのは、全然今に始まったことではない。

最近『利益第二主義』という本を読みました。

この本は、鹿児島県で3店舗を展開している24時間の超大型スーパー「A-Z」の創業者である巻尾英二さんという方が書いた本です。「利益第二主義」というキャッチーなタイトルと、鹿児島で工業高等専門学校に通っていた頃しょっちゅうA-Zにはお世話になっていたので、とても気になっていました。

 

学生時代にめちゃくちゃ通っていたスーパー「A-Zはやと」

(画像引用:http://a-zmakio.com/hayato/ )

基本的には牧尾さんの一代記的な内容の本ですが、サラッと読めました。

「A-Zは生活者の手助けになりたい」

この本のなかで、何度も繰り返され、もっとも印象に残っているのが「『A-Z』は、地方で不便な思いをしている生活者の手助けになりたい」という、「A-Z」という巨大スーパーに通底している価値観です。

A-Zの1号店は鹿児島県の阿久根市という過疎化・人口減少がどんどん進む地域で、「日常生活におけるすべての買い物をワンストップで行える店があればあれば便利なのではないか」と考えた巻尾さんが、当時阿久根市で営んでいたホームセンターから業態を思いっきり変え、立ち上げたスーパーです。

そこから、2店舗目の「A-Z かわなべ」、3店舗目の「A-Z はやと」と現在は3店舗を鹿児島県内で展開しているA-Zですが、この本からも「生活者の手助けになる」という確固たる基本理念がものすごく大事にしている会社なんだなということが伝わります。

たしかに、改めて学生時代を振り返ってみると「なるほど」とうなずけます。文房具の品揃えはいいし、ちょっと食料品を買うにも申し分ないレパートリー。釣具や工具などのレジャー用品も十分ですし、なんなら車も売っていたり、本当にAからZまでなんでもある店で、普通ならいくつかの専門店を回らなきゃ手に入らない商品を一度の買い物で全部済ませてしまう、というケースはよくありました。

また、24時間営業というのも、学生だった僕にとってすごくありがたいものでした。当時は免許取り立てて、ちょっと車の運転がてらに両親の車を借り、よく深夜まで営業をしているA-Zに行ったものです。そこで、別にほしいわけでもないお菓子や文房具などを買ってただただ帰る、というのが日課になっていて、それがたまらなく楽しかったんですね。

もちろん、学生だけでなく、主婦や夜勤明けの方なども深夜にもちらほら見受けられました。この本のなかで、牧尾さんは「東京と地方じゃ生活のリズムが違う、とよく言われるが、実はそんなことはない。深夜営業するスーパーの需要は、地方にだってある」とおっしゃっています。それを、当時直接見ていたので、この生活サイクルに対する考え方にはすごく納得させられました。

 「共感」が成長のエンジンとなった。

この本のなかで特に感じたのは、A-Zは口コミ、すなわち「共感」で大きくなった事業だということ。

中盤に、「1万円の商品をチラシで1,000円と誤記したが、訂正せず1,000円のまま全部売り、さらに追加注文まで受けた」というすさまじいエピソードや、台風時に屋根材を鹿児島市内の業者は3倍くらいの値段で提供していたところ、A-Zでは逆に定価の3割引きで販売したというエピソードなどがあります。

これらはまさに、地域の生活者のことを最優先すべくとった行動なのですが、一時的には赤字になってしまう。けれど、こうした一貫した「利益第二主義」をぶっちぎっていくことでA-Zは「A-Zなら値上げするどころか安くなる」とか「A-Zはウソをつかないスーパーだ」といった口コミが広がり、立ち上げ当初は疑問の声もあったそうなのですが、次第にどんどん評価を高めていったのだそうです。

 

昨今のインターネットでは、すぐにユーザーの口コミや評判、裏事情などがすぐにSNSを通じて広がるため、ウソをついたり、不誠実な態度で営業をすると消費者にすぐに見透かされてしまう時代です。

けれど、それは決していまに始まったことじゃないんですね。特に地方で展開している小売店などは、良くも悪くも客の噂がすぐに広まり、それがダイレクトに売り上げに影響するという環境にあります。A-Zは、その事業を貫く姿勢から、マイナスに働いてもおかしくない環境を見事にプラスに反映し続けてこれまで成長してきた企業です。この本を読むと、それがすごく分かります。

他にも、「一般的な車検工場は月間に100台車検ができればAクラスと呼ばれるが、A-Zでは素人の工員だけを雇ってゼロベースで方法を模索した結果1ヶ月で600台近く車検をこなせるようになった」という、「生産性おばけ」とも言える一面を持っていたり、いろいろ知らなかった事実が出てきて、とてもおもしろく読めました。

ぜひ、気になる方は手にとってみてください。

 

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