壁打ち相手としてのAI

最近ではAIによる技術革新がこれまで以上に加速度的に高まっているように思う。こうしたAIの将来的な脅威に一抹の不安を覚える一方で、当然ではあるが、私自身も現時点でAIの技術の恩恵を受けている一消費者でもある。最先端のAI技術がどれほどのレベルに到達しているのかを実際の肌感覚で知っておきたいため、AI技術が搭載されたガジェットやソフトウェアは積極的に導入するようにしている。

そこで改めて、現在の日常生活や業務で恩恵を受けているAIのテクノロジーについて挙げてみることにした。パッと思いつく限りではあるが、Google Homeの音声認識、Krispによる音声ノイズ除去、スマホカメラの顔認識、車の自動運転支援、DeepLによる翻訳、Copilotによるコーディング支援あたりが浮かんだ。実際にはもっとあるかもしれない。

このラインナップを見てどう捉えるかは人によるところかと思うが、個人的には現時点で既に日常の結構な領域にAIが侵食してきていると感じる。特にDeepLは英文の記事やドキュメントを用いた情報収集には欠かせない存在になっているし、最近ではGithubが公開したCopilotというコーディング支援サービスに衝撃を受けた。

Copilotの体験を簡単に説明すると、コーディングをする際に冒頭の一部を記述すると、その後に続くであろう記述内容を予測して提案してくれるというものである。もちろん、これが単語レベルの補完であれば、従来からエディタに備わった補完機能として提供されていたが、Copilotの場合は予測のレベルがまるで異なっている。単語レベルという次元ではなく、その後に続く数行〜数十行のレベルで、プログラミング用語で言うところの関数単位で記述を予測してくるのである。この体験を初めて味わった時は、衝撃のあまりしばらくポカーンとしてしまった。

ただ、このCopilotがもたらす未来について脅威を感じているかと言うと、個人的には(今のところ)楽観的に見ている。その理由は主に2点あり、1点目としては精度の問題だ。Copilotが提案してくれるコーディングの内容として、常に100点の完璧なものを返してくれるかと言うとそうではなく、80点前後という印象だ。もちろんこの精度が次第に高くなっていくことは予想されるが、95点あたりで一度頭打ちを迎えるのではないかと思っている。ちなみにこれはCopilotに限った話ではなく、あらゆるAIの挙動を見ていて共通して思う部分だ。例えば自動運転に関しても、公道の95〜98%程度までは自動運転によってカバーされる未来は割と見えるが、残りの数%の領域では人間の手が必要という時代がしばらく続くのではないかと予想する。例えばそれは細く曲がりくねった道での対向車とのすれ違いであったり、極めて交通量や標識が多い市街地などである。現在の挙動を見る限りでは、もう一段大きなブレイクスルーが起きない限りこの壁を突破することが難しいように思える。
そして2点目の理由としてはコーディングより上位レイヤーに存在する設計部分の存在である。システムの仕様が与えられて内容を解釈し、プログラムの設計に落とし込むところはまだCopilotがアプローチできていない領域である。ただ、こちらは1点目よりも早い段階で解決されるかもしれない。やはりAIが特に苦手とするのはニッチな個別最適の部分にあると個人的には考えている。

さて、いずれにせよCopilotが現時点で既にAIとしての品質が非常に高いことは間違いないのだが、同時にサービスが提供するUX、言い換えるとユーザとの距離感も非常に素晴らしいと感じた。Copilotはその名前が示す通り、ユーザにとっての副操縦士として振る舞う。あくまで主操縦士はユーザであると言うことが肝だ。これは他のAIサービスにはありそうでなかった割り切りであると感じた。そしてこの振る舞いが何故しっくりくるのか、という点も簡単に説明ができる。それは、繰り返しになるがAIが提供する解のクオリティは80点程度であるためだ。これが、いとも簡単に100点の解を連発するレベルになれば話は別だろう。それであれば直ちに副操縦士ではなく主操縦士をやってもらうべきだ。(そしてそれが実現された時点が、いわゆるシンギュラリティと呼ばれるターニングポイントになるのかもしれない。)ただ、現時点では80点なのである。その立ち位置に自覚的であり、踏まえた上で最も価値を提供できるアプローチがCopilot的振る舞いだったのだと思う。

そしてこのCopilot的なアプローチは今後現れうる他のAIサービスにも広く応用が効きそうであると思った。例えば、ビジネスシーンにおける議論の壁打ち相手やコーチングの相談相手など。自分の提示する議題に伴走してもらいながら、時折違った角度の質問を投げてくれる。そうしてユーザは自分自身の考えを深めていくことができる。これはあくまでちょっとしたアイデアの一例に過ぎないが、「Copilot for ◯◯」は他にも思いつきやすいし今後可能性があるスペースだと思った。

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