前回のブログ にて、丁寧な仕事をされるパートナーの方に感化される形で自分も目の前の仕事に対して丁寧に向き合うようになった話を書きました。しかしながら、実際に日々の業務を愚直に真摯に実行するのは難しいものです。気合いと根性だけではどうにもならず、妥協せざるを得ないときもあります。それは、現実の仕事においては得てしてヒト・モノ・カネの制約が絡むためです。従って、それでもなお自分が納得するような丁寧な仕事を遂行するにはそれなりのお膳立てが必要となります。今回はその話について書こうと思います。
1. 顧客との信頼関係を築く
初っ端から核心に迫るような見出しとなってしまいました。しかし、やはりこのことは第一条件に値します。実のところ、真の意味で顧客と信頼関係を築くことは想像以上に難しいものです。何故ならば、元来我々制作側はお金を支払われる立場にあるためです。そのため、「お客様は神様」よろしく、どうしても発注側>受注側という力関係にならざるを得ません。対等な関係を構築するためには、こうしたマイナスからのスタートであることをまずは意識しておく必要があります。
この不均衡な状態を少しでも均衡に近づけるべく、いくつかの意識していることがあります。例えば、積極的な営業活動は行わないこと。ここでいう営業活動とは、ダイレクトメールやテレアポに代表されるようなこちらから働きかけるセールス行為のことを指します。こうした営業を行った結果、奇跡的に相性の良い顧客と巡り合えれば理想ですが、実際の場合は仕事を獲得することができたとしても顧客側には「発注してあげている」という心理が少なからず働くでしょう。前述したように、ただでさえマイナスからのスタートであるにも関わらず、このような仕事の受け方をしてしまってはマイナスにマイナスを重ねることとなります。
また、インバウンドで顧客から依頼を頂いた際にも、その相手と初めてお仕事をする場合であれば確認する事項があります。それは、「弊社のどういった特長に期待してお声掛けいただいたか」という点です。いわゆる期待値調整の作業に当たります。極端な例ですが、弊社の特長を特に理解している訳ではないがネットで検索したら見つかったので、なんて場合だと到底良いプロジェクトにはなり得ません。弊社の強みを正しく把握されていたり、過去の実績から共感していただいたものがある場合であれば、期待値と提供できる価値が合致しており適切なスタートラインに立てていると言えるでしょう。
2. スケジュールに十分な余裕を持つ
納得のいく仕事を実現するための必須条件の1つに、スケジュールに十分な余裕を持つということが挙げられます。キックオフの段階で無理のないスケジュールを設定するのはもちろんのこと、必要に応じたクオリティブラッシュアップのために臨機応変なスケジュール調整が見込めることも事前に抑えておけると理想です。しかしながら、現実の多くのプロジェクトではそんなに虫の良い話はなかなか存在しません。そのため、やはり1の顧客との信頼関係の構築が重要になってくるのです。このあたりは個別案件ごとの折衝の領域となりますが、1の段階で期待値として据えていただいた品質を実現するにはどうしても十分なスケジュールが必要である旨を伝えつつ、他方で先方のビジネスにおける譲歩できないデッドラインも受け取りながら対等な立場で落とし所を議論できると良いでしょう。繰り返しになりますが、ここで対等な議論をするために1の信頼関係の構築が重要となってきます。
3. 依頼を断ることができる余裕を持つ
上記の1や2で述べたことは、いわば受ける仕事に対して条件を付与する行為であると言えます。だとすると、条件を潜り抜けることができなかった場合、すなわち顧客との信頼関係が十分に築けていないと判断した場合やスケジュールに十分な余裕を持つことが見込めないと判断した場合はどうなるでしょう。ドライな結論ですが、その依頼を断ることとなります。しかし、我々のような制作を生業にしている者は日々のスケジュールを一定以上制作業で埋めなければなりません。仕事を断った結果、以降の日程が暇になってしまってはどうしようもありません。つまり、仕事を受けられる最大のキャパシティよりも多く依頼を頂けるような状況を作る必要があります。あくまで個人的な感覚ではありますが、キャパシティに対して2倍以上程度の依頼件数を頂けるようになると、1・2の条件に対して妥協なく選別することができると感じています。つまり、受け取った依頼に対して2件に1件はお断りするような状態がヘルシーであるということです。(以前のブログでも似た話を書きましたが、このような言い回しは依頼側からするとやや不愉快に思われるかもしれません。しかし、得意領域の相性やご依頼のタイミング等も踏まえた上でお互いに正しく利益が生じるような仕事を目指そうとするならば、このような選定が必要不可欠であることをご理解ください。)
4. 提供できる価値を磨き続ける
1〜3を読みながら薄っすら感じていらっしゃる方もいるかもしれませんが、これらは全てこちら側(制作側)にとって都合の良い状況になるような心がけを並べた話です。特に3の「キャパシティの2倍以上の依頼を頂く」という目標は、それに見合った価値がこちら側になければ実現することができません。そのため、それに値する価値を感じてもらえるように日々の技術的な自己研磨を欠かさないことが重要です。結局のところ、弊社の営業戦略はこの1点に全フリしている事例であると言えます。
「自己研磨」と書きましたが、研磨した結果を世に伝えるための努力も大切です。幸運なことに、Web制作の仕事においては案件の実績をそのままポートフォリオとしてアピール材料にすることができます。なのでまずは受注した仕事を全力で頑張ること(なんだか当たり前のことすぎて間抜けな書き方ですが)。こうして書くと良いアピール材料を作るために今の仕事をやり切るんだ!みたいなモチベーションに見えるかもしれませんが、実際に制作しているときはそんなことは考えず無我の境地です。本当に。
そしてもう一つ、市場における価値を高めるために無意識にやっていることを思い返すと、「他者があまりやりたがらないけれど自分にとっては苦ではないこと」を見つけて深掘りするという作業があるように思いました。ただ、このテーマはまだうまく言語化できておらず、なおかつ長くなってしまいそうなのでまた別の機会を見つけて書こうと思います。