ビートルズのポール・マッカートニーは「音楽は目を閉じて聴くものだ」という趣旨の発言をしている。僕はこの言葉を中学生くらいのときに知り、かっこいいことを言うなあと思ったものの、いざ自分がそれを試してみると多感な時期だったこともあってか15分くらいでムズムズしてやめてしまった。
ただ、今この歳になって、寝る前にヘッドホンで音楽「だけ」を聴く時間が至福のような体験でとても好きだ。目を閉じることもあるし、部屋を暗くするだけのときもある。それだけでも随分体験は良くなる。
なぜこうした体験が今になって染みるようになったのか。それはもちろん歳を重ねたり、仕事が普段忙しいためその休息となる時間が愛おしいというのもあるが、やはりネット時代における情報過多な状態が起因しているのだろう。音楽だけを聴いていたつもりでも、少し油断すればプッシュ通知などから誘発されるその他のメディアと同時に鑑賞することになる。いわば、常にあらゆるコンテンツをつまみ食いしてしまっているのが現代人である我々の悩みだと思う。だからこそ、音楽だけに集中する短い時間がとても尊いように感じられる。僕はサウナにあまり行くタイプではないけれど、周りでサウナにハマっている人が多いのも同じ理由な気はする。あの狭い空間の中で、サウナだけに集中することができる心地よさ。
今はまだこうした至福の体験を音楽鑑賞くらいにしか見出せていないのだけど、もう少し広げていけると嬉しい。それは映画館に行く回数を増やすことかもしれないし、仕事に集中したいときは一切のチャットツールやプッシュ通知を切ることで得られるかもしれない。要するに、無意識につまみぐいしてしまっている今の状況を少しステップバックして、目の前のこと一つ一つに集中できる時間を増やしていきたい。
