「黒じょか」。鹿児島県民にはまだ馴染みがあるかもしれないが、九州外の人はおそらく見たことすらないであろう酒器。
昔の鹿児島の人は、この黒じょかに予め水で割っておいた焼酎を入れて火にかけ、温かくなったしたものを飲んでいたらしい。
実際に飲んでみると、その味はいわゆる「お湯割り」とはまるで異なることが分かる。お湯割りで作られる焼酎は、急激な温度変化によって香りが散ってしまうとされる。
これを香りが立つという表現によって喜ばれる場合もあるが、飲む際には香りが弱くなってしまっていてやや物足りない味になってしまっている。急激に温度が変わることで、お湯と焼酎の馴染み方も荒く、やや角のある味になってしまう。
一方で黒じょかで温めた焼酎は、じんわりと温かくしてから飲むために香りが十分に閉じ込められた状態となり、水と焼酎の混ざり方もまろやかで、すごく柔らかい味になる。較べてみると、はっきりとその違いは感じられる。
さて、実はこの黒じょか。前割りした焼酎を飲むのも実は本来の味わい方ではないらしい。昔の人は、焼酎を割らずに生の状態で、黒じょかに入れて温めていたという。そしてそれを、今のようにグラスのような器ではなく、お猪口のようなサイズの器に入れてちょびちょびと飲んでいたという。今まさに、そうやって飲んでいるのだが、確かに生の焼酎を黒じょかで温めると美味しい。