Webサービスにおける「ローンチ」について考える

Webサービスを世の中に初めて公開することを一般的に「ローンチする」という。開発メンバーの間では、新規サービスを開発するにあたって「ローンチ」は最初に目指すべき到達点の1つであり、ローンチ日をいつに設定するのかという話題はシビアに議論される。

一方で、サービスを既に公開しているにも関わらず、「ローンチしました!」と大々的に公表することなく、運営会社名を隠しながらこっそりと顧客の反応を伺う手法もしばしば見られる。この手法は「ステルス」と呼ばれる。特にベンチャー企業でこの手法をとるチームは多く、現在では既に大きなサービスに成長しているプロダクトでも、サービスが完成してから半年〜1年間くらいはステルスで運用されていたものも多い。

ここでふと疑問に思うのが、「ローンチしました!」と大々的にPRすることが持つ、実際的な効果はどれほどのものなのかということだ。ステルスで運用するという選択をとる企業が多いということは、裏を返すとそれほどローンチという行為に対してセンシティブに捉えているということだ。

考えてみると、ローンチには大きく2つの効果がある。1つはPR的効果。そしてもう一つが開発メンバーのモチベーションへの効果である。
1つ目のPR効果というのはわかりやすい。ローンチしました!と大々的に言うこと、つまりリリース広告を打ったり、SNSで訴求力の強いメンバーが積極的に発信することで大きな宣伝効果が得られるだろう。ただ一方で重要なのは、ローンチ時のPRが成功するか否かという問題は、サービスがその後成功するか否かにもたらす要因としてはわずか一部でしかないということだ。ローンチ時には大きく盛り上がったけれども数ヶ月後には全く名前も聞かなくなるようなサービスも数多く見てきたし、逆にローンチから数ヶ月〜数年経ってからじわじわと尻上がり的に知名度を獲得していったサービスも多く存在する(むしろ、現在広く使われているサービスのほとんどは後者ではないだろうか)。
サービスを作っていると、どうしてもローンチのタイミングの反応に全てを賭けようとし、その反応次第でサービスの価値全てが決まってしまうように考えてしまいがちなので、この点は気をつけなければならない。

そしてもう一つ、ローンチがもたらす効果として開発メンバーのモチベーションへの影響があると思っている。当然ながら、サービスのローンチ前とローンチ後のメンバー内の心理状態は全く種類の異なるものとなる。ローンチ前は比較的安定したモチベーションで、サービスの完成をめがけて走り続けることができるが、ローンチ後には顧客の反応と向き合いながら一喜一憂し、それと同時にサービスを改善しつづけなければならない。つまり、ステルスでサービスを運用するということは、顧客の反応がどうであったとしても、「まだまだあくまで準備段階だし」という心の余裕をどこかで持たせることで、モチベーションを良い状態に保ち続けることができるという効果があると考えている。もちろん、ステルスの状態を長く保ち続けると、返ってメンバーを疲弊させてしまうため、やはりタイミングの頃合いには気を使う必要があるが。

最近ではスタートアップのサービス開発も多様化してきており、ローンチの定義も曖昧になってきている。valuは現在でもなおBETA版であると謳っているし、Wantedlyのチャットサービスである「Wantedly Chat」も開発当初はSyncという名前で長らくBETA版として提供し、その後正式ローンチ。さらにその後 Wantedly Chatへと改名することで再びPR効果を持たせるなど、複数回に渡ってローンチが持つPR的効果をうまく使っているケースも見受けられる。

ローンチ前、ローンチ後と、はっきりと白黒をつけるのではなく、その間にある緩やかなグレーゾーンをうまく活用することが現在のスタートアップにおけるうまい戦い方なのだと思っている。

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