藤浪投手のイップスから考えさせられること

最近野球ファンの間では、阪神タイガース藤浪投手のイップス疑惑問題がよく話題にあがります。僕も彼が暴投を連続する様子を見て、心配にならざるを得ません。

特に最近話題になったのは広島戦のこのシーン。

藤浪投手が対する広島の投手である大瀬良選手の左肩にデッドボールを当ててしまったシーンです。

改めておさらいしておくと、藤浪投手は現在、右打者の頭部に対する暴投を頻繁に投げてしまうという、深刻なイップスを患っているとされています。
このシーンでは、デッドボールを受けた直後に大瀬良投手は「大丈夫、大丈夫」と藤浪投手に対して声をかけているシーンが映っています。普通であればデッドボールを当てられた敵チームの打者が、相手投手のことを気遣うなんてことは絶対に有りえません。それでは何故、こういうやりとりが発生したのか。

それは、大瀬良投手は藤浪投手と普段から親しい仲であり、藤浪投手がイップスに悩んでいることも知っていたからです。このタイミングで自分がそのデッドボールの相手になってしまったことは不運でしたが、それよりも久しぶりの復帰登板を果たした藤浪投手が再度デッドボールを当ててしまったことで、更に症状を悪化させてしまわないかと懸念した上での、この行動だったわけです。

ちなみにこの後も藤浪投手は続投をしましたが、投球フォームの最中にボールを落球してしまうというシーンが見られたり、後の菊池選手にもデッドボールを当ててしまった結果、途中降板を余儀なくされています。この試合のあと、藤浪投手は再度二軍に落とされ、現在でも調整中です。

藤浪投手が抱えているこの「イップス」という症状。まだまだ一般的に理解が浸透している症状であるとは言えず、この試合を見ていた人の中でもイップスを知っている人か否かで全く見方が違っていたでしょう。藤浪がイップスを抱えていることを知らないファンからすれば、「藤浪めちゃくちゃノーコンだな」とか、ややもすれば「藤浪、バッター狙ってんじゃないか!?」と憤る広島ファンがいたとしても全くおかしくありません。そして、この試合中に解説者が述べているように、ファンはおろか広島のベンチに座っている選手や監督・コーチの間でも事情を知らない人が一定数いるように思います。

藤浪がイップスを引き起こしたきっかけは、今年の4月にあったヤクルト戦の出来事であったとされています。

相手打者の畠山選手に対して投げたボールがすっぽぬけ、頭部に直撃してしまいました。結果両軍入り乱れる乱闘騒ぎになり、この際に藤浪投手は大きな精神的ダメージを受けたと考えられます。

イップスの意味をWikipediaで引いてみると、

精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害のことである。本来はゴルフの分野で用いられ始めた言葉だが、現在ではスポーツ全般で使われるようになっている。

とあります。つまり、このようなトラウマになるレベルの失敗をしてしまった場合、そのシーンが脳裏に焼き付いてしまい、体が思うように動かなくなってしまう症状のこと。
この試合のあと藤浪投手は2軍行きを言い渡されますが、2軍でも同じように頭部へのデッドボールを頻発し、苦戦し続けています。

野球におけるイップスはピッチャーのみならず、野手も同様に引き起こすリスクを秘めています。特にキャッチャーでイップスを患う選手は多いとされていて、ピッチャーにボールを投げ返すことすらままならない状態に陥ってしまった選手もいます。

イップスは精神状態から来るものですから、「キャッチャーがピッチャーにボールを返す」というプレーにもはや関係のないところで凡ミスをしてしまった、という経験が一度でもあると、その不甲斐なさから逆に「あってはならないミスをしてしまった」という精神的ダメージへと繋がり、イップスに陥りやすいのだと考えられます。

Wikipediaの説明にもあるように、イップスの症状は野球のみならず、多用なスポーツにおいて起こりうるとされています。ただ、「重大な失敗経験がトラウマとなり、後のパフォーマンスに悪影響を与えてしまうこと」という広い括りで見ると、これはスポーツのみならずあらゆる職種・技能において起こる問題だと思っています。

例えば、エンジニアが巨大なサービスのサーバーを、自分のミスによって落としてしまった(エラーによって表示できない状態にしてしまった)場合、そのときのトラウマから以後プログラミングの仕事に対して拒絶反応を示したり、最悪の場合は選手生命を絶たれ、別の職種に異動せざるを得なかったりという話もよく聞きます。

今回の場合は藤浪投手という球界を代表するピッチャーですら、そういった症状になってしまったのですから、もはや実力は関係ないレベルで誰しもがなり得る危険性を孕んでいるわけです。そういったことから、彼の投球を見ながら他人事には思えず、見るたびに心が締め付けられるような気持ちになってしまいます。

長くなりましたが、藤浪投手の1日でも早い復帰を心から願っています。

つぎの日 何事も、「断言」はしない。

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まえの日 「消耗する一部を交換すれば、末永く使える」という製品が好き。

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