「買えない酒に価値は無い」というのは、八海山を製造する八海醸造さんが掲げるポリシーです。日本酒に限らず焼酎やワインなんかも、「なかなか手に入らない」ということ自体を価値化し、プレミアと称して高い値段をつけるマーケティング戦術は多くなされています。それが本当に需要に対して供給しきれていないからプレミアになっているケースであればまだ良いのですが、実際には需要をちゃんとカバーできるくらい大量に生産できる体制があるにも関わらず、敢えて流通量を低く抑えることで「偽りの」プレミア感を演出しているところもたくさんあります。
そういうやり方に対するアンチテーゼとして掲げられている八海醸造さんのポリシーはすごくクールで、ユーザファースト。どれだけ銘柄に人気が出ようが、それに甘んじて欠品を起こすような商品であれば無価値であると言い切っています。ちゃんと買いたいときに買える商品にこそ価値があると。
これって、僕らの仕事に置き換えると、「発注したのにスケジュール的に余裕がないからと言って仕事を断るクリエイターに価値はない」ということだなと、ふと思いました。ま、これはどうしようもないことなんですけど。じゃあなんでどうしようもないかというと、仕事というのはだいたい人・物・金の3要素で成立していますが、僕らの仕事のリソースは全てが「人」そのものであり、かつこの「人」の要素に替えが効かないというのが大きな理由です。
替えが効かないというとかっこいい風に聞こえるけれど、ビジネスをスケールさせる上ではデメリットでしかない。少なくとも今の僕らの仕事のやり方では、どうしても「買えない酒」は発生してしまいます。スケジュールの都合上、お仕事をお断りするときには、お高くとまっているなんて気持ちはまるでなく、むしろ恥ずべきことだと常々思っています。仕事をやむなくお断りする度に、早く誰でも買いたい時に買えるようなモデルの事業を作らねばと強く思っています。