仕事を発注する側、される側。インタビューをする側、される側。
ビジネスにおけるコミュニケーションは得てして、「する側」と「される側」に分かれることが多い。また、「する側」に立ち続けるか「される側」に立ち続けるか、どちらかに偏るケースがほとんどで、一人の人が場合に応じて「する側」と「される側」を行ったり来たりすることは割と少ない。
弊社も制作会社なので、普段は制作の発注を「される側」に立っている。ところが最近、自社事業の中で特にデザインを拘りたいところを、信頼のある外部のデザイナーにお願いすることにした。いわば、自分たちのプロダクトに関わる制作の一部を発注「する側」に立ったのだ。
実際に反対側の立場に立ってみて初めて見える視点は非常に多い。見積もりの出し方や、提案に対する戻しの出し方、スケジュールの立て方や相談の方法など、全てが新鮮。「クライアントって普段こういう気持ちなのか…」と、まざまざと感じさせられる。
このように、仕事をする上で普段は「する側」と「される側」のどちらかに偏っていたとしても、たまには意識的に逆の立場に立ってみることはすごく重要。片方の視点からしか物事を見ていない場合、視野が狭くなったり、ちょっと都合の悪いことがあるとすぐ相手に対して難癖をつけようとする。これは人間の心理としてそういうものなのだろう。相手の心理が読めないからこそ勘ぐってしまい、ときには敵対心を持ってしまうこともある。
僕らは普段、発注を「される側」に立っているため、今回発注を「する側」、つまりクライアントとしての立場に立ったときに、相手(される側)の細かい心理状況を察しながらスムーズにコミュニケーションをとることができたと思う。
例えば、あがってきたデザインに対してもうちょっとブラッシュアップしたい箇所が何点か出てきたとき。本来その要望は最初の説明ではしていなかったところだったので、相手からすれば「聞いてないよ」ということになるだろう。こういうとき、どうしても制作に対するモチベーションが下がってしまうクリエイターの気持ちは重々理解している。なので、僕はこのブラッシュアップのお願いをするときには追加予算も一緒に提案する前提で話を進めた。クリエイターのモチベーションを下げてしまうことは一番のリスクになることをわかっていたから。
おかげで今回の発注はすごく順調に、健全に進んでいると思う。今回の経験を通して、クライアントの気持ちもある程度理解できたので、また「される側」に立ったときには今までより相手(クライアント)の気持ちも理解しながら健全にコミュニケーションができるようになると思う。