フロントエンジニアという役職は特殊なもんで、エンジニアという名がつくものの、アニメーション的な演出能力を求められるお仕事も少なくありません。このあたりは、かつてのFlashエンジニア(通称Flasher)と呼ばれる職種の後を継いでいるという背景もあるでしょう。
(※ Flasherは、Adobe社の制作ソフトである「Flash」を用いてアニメーションを作ったり、プログラミングでギミックを作ったりと、多方面のスキルを必要とされた。)
特に我々の会社では、こうした演出のある実装を得意としており、求められるお仕事の半分以上が実装上のアニメーションやギミックを期待されてのものです。
ところが実は、こうしたアニメーション演出の実装を、お客さんとコミュニケーションをとりながらお互いが「コレだ!」と合致するようなところまで持っていくのは非常に難易度の高い作業になります。
一般的なプログラミングの実装やデザイン制作と異なり、ルックのかっこよさやイージングの気持ちよさ、インタラクションの仕掛け方のセンスなど、多種多様なパラメータによって演出は構成されるので、複数人の頭の中で思い描いている絵を合致させるまでには非常に多くのラリーを必要とするのです。
そして何より、一つの演出を作り上げるだけでも膨大な時間がかかってしまう、という事実が難易度の高さをより一層引き上げています。
僕が演出を制作する際の手順としては、まず頭の中でいくつかのパターンをアイデア出しします。ここのフェーズにおけるメソッドとしては、以前のブログでも触れられています。
実装演出の例で言うと、僕がこれまで作ってきた実装をパーツ単位に要素分解し、例えば「切り刻む」「斜めに動かす」「タイムリマップをかける」「グリッジ」「色調反転」「リズムを取り入れる」といったワードに落とし込みます。そして、新たにクリエイティブを考えるときは、これらのワードを組み合わせるやり方で考えるようにします。こうすることで、今までよりも新案を考える時につまづきにくくなりました。
そして、出した案を実際に作っていくわけですが、前述したようにプログラミングを使ったアニメーションの演出は、一つを作り上げるだけでも結構な時間がかかってしまうのです。そこで重要なのは、「自分の頭の中で映像をイメージしている段階で、どれだけ精度高く実際のアウトプットを描けているか」だと思っています。
これは経験によって磨かれるものだと思っていて、経験が浅い時点だと、実際にプログラミングを作って絵を動かしてみないとイメージが湧かない場合が多いです。これが数をこなしてくると、実際には実装をしなくても「こんな風に実装したらだいたいこんな動きを生み出すことができるな」というのが見えるようになってくるのです。僕もまだまだですが、以前よりはずっとこのイメージが湧くようになってきました。これができるとどうなるかと言うと、数ある演出案の中から1つ1つ実装に取り掛かる前に、ある程度イケそうなやつとイケなさそうなやつを見分けることができるのです。結果、作業に掛けられる時間に大幅な余裕ができ、最終的なクオリティの向上に寄与することができます。
とはいえ未だに、「これ、イメージした時点ではあまりかっこよくならなさそうだったけど、実際に作ってみたら思ってたよりずっとかっこよくできたな」なんてことがチラホラ起こります。つまり、自分の頭の中でイメージしていた映像と、実際に作った実物との一致精度がまだ低いときがあるということです。この精度こそが、アニメーションクリエイターとしての実力の中で大きなパラメータを担っていると思っています。
今回はプログラミングを使ったアニメーション制作の話でしたが、おそらくアナログでコマ絵を描いて制作しているアニメーターに対しても同じようなことが言えるのだろうと想像します。数秒間のアニメーションを作るだけでも数十枚のコマを描くわけですから、まずは描く前のイメージの段階からある程度精度高く絞れていないと、時間がどれだけあっても足りないだろうと。ふと、以前NHKで放送されていたジブリの制作風景を思い出しながら、考えたのでした。