「本」なのに「本」じゃない感じ。1冊150円で楽しめる文鳥文庫を全力でおすすめしたい。

先日、文鳥社から出ている「文鳥文庫」というシリーズから出ている乙一さんの『 東京』という小説を読みました。この文鳥文庫がすごく新鮮だったので、今日はこれについて書いてみようと思います。

文鳥文庫を作った牧野さんについては、下記のインタビューで読んで存じ上げていたり、その後実際にお会いしてお話したりすることがあり、ずっと気になっていました。

参照:理系出身コピーライターが「文鳥社」で実践する”デザイン思考”

そんななか、先日代官山蔦屋書店に行くと、その文鳥文庫の特設コーナーを発見したんですね。

文鳥文庫の特徴であるうすーい文庫本がセットだったり、1作品単位でずらーっと並べられており、気になって作品を物色していると、僕が以前好きだった作家・乙一さんの名前が見えました。それは単品で、薄い本がフィルムに包まれた状態で売られていました。値段は150円。絶妙な価格。ずっと気になっていたし、ジュース1本分の値段で新しい体験ができると思い迷わず購入しました。

で、その本を読んでみたのですが、これがすごく良かった! 作品のタイトルは『東京』。まさに乙一ワールドがじわじわくるような、不思議な読後感のある作品でした。

作品はもちろん素晴らしかったのですが、それ以上にこの文鳥文庫のスタイルがおもしろいと感じました。本は、普通の本のようにいくつかの紙のブロックを糸で綴るのではなく、横に長い紙をそのままパタパタと折りたたんであるだけのシンプルな構造。なので、読んでいる最中は、いつものように「本を読んでいる」という感覚ではなく、巻物とか、特殊なパンフレットとか、そういう新しいカテゴリの読み物を手にしているという感覚でした。

この、「本なのに本じゃない」という不思議な感覚。これを楽しむだけでも、十分に150円の価値はあると思いました。

また、この『東京』という作品は全部で16ページと、とても短く、ほんとうにあっさりと読み終えることができます。逆に言うと、この形状で成立させるにはこのくらいのボリュームでないと難しいのでしょう。この部分について解説があったので、上記の牧野さんの記事を少し引用します。

「本の形はほとんどが同じものですが、短編にもっと適した形が他にあるのではないか?」というのが文鳥文庫の発想の元になっています。電車に乗ると分かるように、みんなスマホを眺めていますよね。SNSなどから常時、情報を摂取することで情報欲求が満たされてしまっている。加えて、短いセンテンスの文章に慣れてしまったことで、一冊の本が長く感じるんですよね。本がスマホよりも物理的に重いということも、ハードルになっている気がしました。だけど、10分程度で読める良質な素晴らしい物語ってたくさんあるんですよ。

すごく月並みな表現になってしまうのですが、「本」という既存のコンテンツにすこし手を加えたり、見方を変えるだけで、こんなにも新しいと感じる体験ができるということに、すごく驚きました。表現の形にはいくつものパターンがあり、現代においてそれらはほぼ出尽くしたのかな、なんて思っていたのですが「まだ、あったのか」と。

本好きな方も、あまり普段読まない方でも、この「文鳥文庫」は全力でおすすめします。150円とお手頃な価格ですし、嵩張ることもない。すごく気楽に手にとることができると思うので、街の本屋で見かけたらぜひ見てみてください。

文鳥文庫

 

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