「良い映画はにおいのする映画だ」という有名な言葉がある。似たような表現で、CEKAIの井口さんは「クリエイター同士がバチバチと喧嘩のようにぶつかりあう中で生まれるドロっとしたものが、良いクリエイティブだ」ということを仰っていた。そういう風に、良いクリエイティブというのは綺麗でツルツルしたものではなく、どこか生臭くて引っかかりのあるものだと思っている。
人間の五感の中で、昔のことを思い出すのに最も寄与するのは「嗅覚」そして「聴覚」だと思う。昔の部屋のにおいを久しぶりに嗅ぐと懐かしい気持ちになるし、昔聴いていた音楽を久しぶりに聴くと、これもまた懐かしい気持ちになる。最近はそれを逆から捉えることがあって。つまり、今よく聴いている音楽を来年の今頃聴いた時に、ちゃんと懐かしい気持ちになれるかどうかということ。その懐かしさというのは、ブワッとにおいが蒸し返してくるような濃いものであるほど良い。未来の自分が振り返った時に、それくらい臭いのするような毎日を送れているか?ということを最近では指標にしている。
ちなみに、会社を立ち上げた頃は「君の名は」が一番流行っていたときだった。前前前世を聴くと、起業当初の生臭い思い出が、浴びるように思い出される。そういう風に、去年よく聴いていた曲を久しぶりに聴いてみて、においのする思い出をちゃんと感じられるような毎年をこれからも送っていきたい。